ウェブマーケティングの時代のための消費者行動モデルとは

マーケティングの教科書には必ずといってもいいほど取り上げられている《消費者行動モデル》ですが、
皆さんは、自社のマーケティングに正しく取り入れられていますでしょうか。

代表的な消費者行動モデルにはAIDMAAISEASなどがありますが、これらの消費者行動モデルは時代とともに変化し続けています。
自社のウェブマーケティングを成功させていく為には、自社のビジネスモデルにあったモデルを設定することが必要です。

「消費者行動モデルって簡単に言うと何のこと・・・?」
「顧客の行動パターンがたくさんあり過ぎてモデル化できない」
「自社のビジネスにはどの行動モデルが適切なのだろうか・・・」

なんて悩まれている方は是非参考にしていただければと思います。
今回は、ウェブマーケティングの時代に必要な消費者行動モデルについてまとめています。

【目次】

  1. 消費者行動モデルとは
  2. 代表的な消費者行動モデル
    • AIDA
    • AIDMA
    • AMTUL
    • AISEAS(AISAS・AISCEAS)
    • DECAX
  3. 消費者行動モデルは自社のマーケティングに合ったものを選ぶ
  4. 消費者行動モデルをマーケティング戦略に落とし込む
    • AIDMAモデルが有効なケース
    • AISEASモデルが有効なケース
    • DECAXモデルが有効なケース
  5. まとめ

①消費者行動モデルとは

消費者行動モデルとは、《購買行動モデル》と呼ばれていることもあり、

『ユーザーがある商品を購入して消費するまでの道筋を単純化・パターン化してモデル化したもの』

になります。

消費者行動モデルはいくつか挙げることができるかと思いますが、それぞれの行動モデルはそれぞれの時代的な特徴を表しているといえます。

消費者の行動パターンは、その時代の生活様式によって決定されます。
例えば、テレビ・ラジオが登場する前の時代には当然のことながらテレビCMのような、一度に大勢の消費者に向けてメッセージを届ける手法はありませんでした。テレビ・ラジオが生活様式の中で普及していくことで、企業は消費者に対して、一度に大量にメッセージを届けることが可能になったのです。このことは、企業にマスマーケティングという考え方を芽生えさせていきました。一方で消費者側の反応として、テレビ・ラジオから流れてくる、商品やブランドのイメージを「記憶する」という行動パターンをとるようになります。

また、インターネットの時代になると、消費者は企業から発信された情報だけでなく、自分自身に必要な情報を得ることができるようになりました。その結果、消費者は自ら必要な情報を「探す」という行動をとるようになります。一方で企業側にとっては、マスマーケティングとは別に、消費者にとって効率的に情報を届けるためのウェブマーケティングという考え方が必要になってきました。

このように、
企業によるマーケティングが消費者の行動パターンを変え、
消費者の行動パターンの変化が企業のマーケティングを変えていきます。

消費者行動モデルの変遷とマーケティング手法の歴史は
互いに影響しあいながら発展してきたといえるでしょう。

それでは、ウェブマーケティングの時代に最適な消費者行動モデルとは何なのかを考えていく前に、これまでの時代環境とともに変化してきた、代表的な消費者行動モデルを見ていきたいと思います。

②代表的な消費者行動モデル

◆AIDA

AIDAモデル

消費者行動モデルの中でも、最も基本的な最初期の行動モデルです。
消費者の行動を

注意(Attention)
興味、関心(Interest)
欲求(Desire)
行動(Action)

のステップに区分したものになります。
AIDAモデルは、アメリカのストロング (Edward K. Strong)氏 という人物が1925年に発表した

Theories of Selling

という論文の中で提唱された行動モデルです。
この行動モデルは1900年頃から提唱されていたAIDモデルをベースにしているともいわれています。

消費者行動モデルの中では、最も古いモデルの1つですが、人間の行動モデルを的確にとらえられており、現在の行動モデルとしても通じるものといえるかと思います。

◆AIDMA

AIDMAモデル

AIDMAモデルはサミュエル・ローランド・ホール(Samuel Roland Hall)氏により提唱された概念です。
このモデルは1924年に、広告(Advertising)と販売(Selling)の実務書として知られる

『Retail Advertising and Selling』

の中で紹介されました。
AIDMAモデルもAIDAモデルと同時期に発表された行動モデルですが、AIDMAモデルのほうがよりマス広告の効果を意識した行動モデルであるといえます。
AIDMAモデルでは消費者の行動を

注意(Attention)
興味、関心(Interest)
欲求(Desire)
記憶(Memory)
行動(Action)

の行動パターンで分類しており、記憶(Memory)のステップが新たに加わっています。
このことは、

『消費者に記憶されることが、マーケティング上で重要である』

ということを物語っているものといえるかと思います。

◆AMTUL

AMTULモデル

AMTULモデルは1978年に日本マーケティング研究所の水口健次氏が提唱した行動モデルになります。

AIDMAモデルでは、ユーザーの行動(Action)までの過程が観察の対象となっていますが、AMTULモデルでは、ユーザーが行動を起こした後の過程に注目し、ユーザーとの長期的な関係性を構築していくことが重要視されています。

お試し品の「試用」から実際の「使用」を経て、「愛用」してもらうという、
現代でいうところの《ファンマーケティング》の視点で行動パターンをモデル化しています。
AMTULモデルは

認知(Awareness)
記憶(Memory)
試用(Trial use)
使用(Usage)
愛用(Loyal use)

のステージから構成されており、ユーザーの実際の行動、試用(Trial use)からさらに、その先に実使用(Usage)、愛用(Loyal use)と区分されている点が特徴的です。

◆AISEAS(AISAS・AISCEAS)

AISAS、AISEAS、AISCEASはインターネット時代を代表する三つ子の行動モデルになります。
そのモデルの原型は2004年に電通から提唱されたAISASモデルです。
AISASモデルでは

注意(Attention)
興味、関心(Interest)
検索(Search)
行動(Action)
シェア(Share)

と検索とシェアというインターネット時代を象徴するような行動パターンが組み込まれています。
AISEASでは検討(Examination)、AISCEASでは比較(Comparison)と検討(Examination)が追加され、検索で情報を得た後の行動パターンをより詳細に区分しています。

◆DECAX

DECAXは近年のウェブマーケティングで重要視されるようになってきた、コンテンツマーケティングをベースにした行動モデルになります。このモデルは2015年に電通デジタル・ホールディングスの内藤氏により提唱されました。
DECAXモデルでは

発見(Discovery)
参加(Engage)
確認(Check)
行動(Action)
体験と共有(eXperience)

という風にユーザーの行動が段階づけられています。DECAXモデルでは、ユーザーがコンテンツを「発見」するところから購買行動が開始されます。

これはAIDMAやAISEASの「AI」のように、企業からの発信されたプッシュ型の情報がきっかけとなっているのではなく、
企業が保有する情報をユーザー自身に発見してもらうというプル型の情報提供が起点となるということです。

ユーザー自らがコンテンツを「発見した」という能動的な起点だからこそ、その後の関係性の構築につながっていくというものです。

DECAXモデルでは、コンテンツマーケティングを進めていく場合に、ユーザーとの関係性をどのように構築していくのかという視点で行動モデルが設定されています。

③消費者行動モデルは自社のマーケティングに合ったものを選ぶ

代表的な消費者行動モデルの変遷を見てわかるように、消費者行動モデルは時代の情報の在り方とともに変化してきました。情報への接し方が変わればそれにより、ユーザー自身の行動も変化してくるからです。

しかし、どの時代にも消費者行動モデルは一つしか当てはまらないというわけではありません。消費者行動モデルはあくまでも、企業側から見たユーザーの行動パターンをモデル化したものです。

そのため、企業の数だけ消費者行動モデルがあるといっても過言ではないでしょう。

消費者行動モデルを自社のマーケティングに取り入れる場合は、常に最新のモデルが優れているというわけではなく、自社のビジネスモデルや商材の特性、マーケティング施策の内容などにあった行動モデルを設定するように気を付けなければなりません。

例えば、コンテンツマーケティングを全く実施していない企業が、消費者行動モデルはDECAXが優れているだろうと考えて、そこからマーケティング施策を組み立てていったとしても、決してうまくはいかないといえるでしょう。DECAXモデルを取り入れていくのであれば、そのモデルを継続して実施できるためのコンテンツを量産していける社内体制や、その後のユーザーの体験や共有を促すようなサービス体制が必要となるからです。

この例のように、自社のマーケティングに即した消費者行動モデルを設定しなければ、マーケティング施策に落とし込むことができず、消費者行動モデルは意味のないものとなってしまいます。

④消費者行動モデルをマーケティング戦略に落とし込む

消費者行動モデルを導き出す場合は、自社の商品やサービスがユーザーにどのように認知され利用されているのかを見極めることが重要です。

上記の代表的な行動モデルを例にとって、消費者行動モデルをどのようにマーケティング施策に落とし込んでいくのか、いくつかのケースを見ていきたいと思います。

◆AIDMAモデルが有効なケース

AIDMAモデルは1924年に登場した行動モデルですが、現在のマーケティングの中では陳腐化したモデルなのかというと全くそんなことはありません。現在でも、マスメディアを利用したマーケティング施策の中ではAIDMAモデルの消費者行動を確認することができます。

AIDMAモデルの特徴は、行動の前段階に「記憶(Memory)」というステップが入ることにあります。

ユーザーがある商品カテゴリの中で、特定のブランドを心の中で想起する占有率のことをマインドシェアといいますが、商材の特性上、他社との差別化が難しい場合、いかにユーザーのマインドシェアを高められるかということがマーケティング戦略上非常に重要になります。もし記憶されなければ、ユーザーが実際に行動を起こそうと思ったタイミングで比較の対象にすらならなくなってしまうからです。

【AIDMAモデルと消費者金融】

このような商品カテゴリの例としては、消費者金融のサービスがあげられるでしょう。消費者金融のサービスモデルの場合、ユーザーが実際にサービスを利用しようと思ったタイミングでは、既にユーザーの中にはいくつかの候補となるブランド名が存在しています。

ウェブマーケティングの視点で考えるならば、このようなケースではサービスを利用しようと思ったタイミングで、社名やサービス名で検索しウェブサイトに訪れることになります。そのため、ユーザーに覚えてもらえなければ、検索すらしてもらえずユーザーを呼び込むことができません。

AIDMAの前半、「AID」の過程で、如何にユーザーに社名やサービス名を認知してもらい覚えてもらうのか、そしてそこから、社名やサービス名での検索数をいかに増やすのかというのかがウェブマーケティング上の課題となります。

消費者金融業界のほかにも、脱毛エステ業界や保険代理店業界の大手も同様に、AIDMAモデルの事例として読み解くことができるかと思います。

◆AISEASモデルが有効なケース

AISEASモデルは、ウェブ上でユーザーのアクション(購入や申し込み・資料請求など)を必要とする多くの商材に当てはまるといえる、今日のウェブマーケティングを代表する消費者行動モデルになります。

ウェブマーケティングでは、AISEASの「行動(Action)」をコンバージョンとして捉えることがよくあります。

コンバージョンとは、ユーザーによる商品の購入や資料請求、サービスの申し込みなどのことで、ユーザーがウェブサイト上で起こす行動でマーケティング上の重要な指標になります。

AISEASモデルは、このコンバージョンを最適化していくために適している行動モデルといえます。
コンバージョンを最適化していくために重要なのは、その前段階である

検索(Search)
検討(Examination)

のステージで、適切なユーザーに、適切なタイミングで、適切な情報を提供するということです。

【AISEASモデルとECサイト】

AISEASモデルが当てはまりやすいサービスとして、ECサイトの事例があげられるでしょう。ECサイトでは通常、ユーザーの購入を目的としています。この購入をコンバージョンとし、コンバージョン数を最適化していくためにAISEASモデルを用いながらウェブマーケティングを実施していきます。

注意(Attention)、興味、関心(Interest)の段階では、ディスプレイ広告を活用して、まだそのウェブサイトを知らない新規のユーザーに、そのサイトのサイトを知ってもらうための施策がとられたりします。

また、検索(Search)、検討(Examination)の段階では、SEO対策リスティング広告を活用して、適切なタイミングでユーザーに情報を提供するための施策がとられています。

特に、最近ではMA(マーケティングオートメーション)ツールの発展によりAISEASの各ステージの広告配信を、一元的に管理することも可能となっています。

マーケティングオートメーション:MAツールの図

◆DECAXモデルが有効なケース

DECAXモデルは、前述のようにコンテンツマーケティングを前提とした行動モデルになります。そのため、コンテンツマーケティングを進めていく体制が整っていない場合には不向きな行動モデルといえるでしょう。ユーザーとの関係性を、継続的な時間の中で構築していくため、その基盤となるコンテンツを用意しておく必要があるからです。

DECAXモデルでは、ユーザーに能動的に情報を取りに来てもらう関係性の構築が重要です。

ここに来れば、自分の知りたい情報を得ることができると感じさせ、ユーザー自身に何度も情報を取りに来てもらうようにしていきます。その参加(Engage)と確認(Check)という過程を繰り返していき、良い関係性を構築していくことが、このモデルの重要なポイントになります。

【DECAXモデルとレシピサイト】

DECAXモデルを活用している事例として、ル・クルーゼ(Le Creuset)やコールマン(Coleman)といった企業が展開しているようなレシピサイトがあります。

このケースでは、直接的な商品を売り込むタイプの情報提供ではなく、ユーザー自身に情報を発見してもらい、徐々に関係性を構築していくというプル型の情報提供がなされています。

発見(Discovery)の段階では、具体的に「ル・クルーゼを使って・・・」とか、「コールマンを使って・・・」といった、特定のイメージでレシピを検索しません。

何気なく見ていたレシピブログの紹介があったとか、「ローストチキン レシピ」や「アウトドア レシピ」のような一般的なキーワードで検索した結果から、その企業のコンテンツを発見して興味を持つのではないでしょうか。

その後、同様のケースで度々そのサイトで情報を得ていくことで、徐々に商品に対してプラスのイメージを持っていくことになります。

体験と共有(eXperience)の段階には、その商品を実際に使用してみて、新たな発見や気付きを得るという深化のプロセスを踏んでいきます。そこからユーザーがFacebookやTwitterなどのSNSを活用してユーザー自身の体験を共有していくことで、それがまた別のユーザーの発見(Discovery)につながっていきます。

事例の参照サイト
https://www.lecreuset.jp/
https://www.coleman.co.jp/recipe/

⑤まとめ

いかがでしたでしょうか。マスメディアの時代からインターネットの時代へと変わりゆく中で、ユーザーを取り巻く環境も大きく変化しています。この環境の変化により消費者の行動のパターンも大きく変化し、それに伴い様々な消費者行動モデルが誕生してきているといえるでしょう。

しかしながら、常に最新のモデルが優れているというわけではありません。

大切なのは、自社のビジネスモデルにしっかりとマッチしているということです。

自社のビジネスモデルにマッチしていない行動モデルを用いてマーケティング戦略を組み立てていったとしても、それは机上の空論にすぎません。ウェブマーケティングの時代だから、AISEASやDECAXだと安易に答えを導き出すのではなく、ターゲットとなるユーザーの行動をしっかりと理解し、そこからユーザーの行動モデルを導き出していかなければなりません。

ぜひ、皆様も自社の顧客の行動から、自社のウェブマーケティングにとって最適な消費者行動モデルが何なのかを導き出してみてください。きっと新たな気づきが得られるでしょう。